【新連載:山崎元の男と女の婚活経済学 1】「経済力」は、「結婚しない理由」にはならない

経済評論家・山崎元の男と女の婚活経済学経済評論家・山崎元の男と女の婚活経済学

男の甲斐性への過剰期待

結婚するか、結婚しないか。

意中の相手がいるとして、結婚を迷う理由が自分か相手の「経済力」にあるとするならば、「結婚した方がずっといい!」と筆者は読者を説得したい。

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そもそも、経済力が理由で結婚をためらうという状況はどのようなものか。女性の職場進出が進んできたとはいえ、日本社会には、まだまだ「夫が稼いで、妻を養う」という形を「普通だ」と考える通念がある。

男性の側では、自分の収入が少ないために、「自分は、まだ結婚するに足るだけの甲斐性がない」、「こんな収入では、妻の家族や親戚に対して顔向けが出来ない」、「結婚したとしても、妻は自分の経済力に失望するのではないか」、「そもそも一人で暮らすのにカツカツなのだから、自分の収入では夫婦の生活は無理だろう」などと思い悩む。

他方、女性の側では、「専業主婦であることを可能にする相手と結婚できた方が、友人にも、親類にも格好がいい」、「可能なら自分は専業主婦であって、子供に手を掛けたい」などと考えて、見栄や打算の要素も加わって、相手の収入に対して敏感になる。

確かに、夫となる人に大きな稼ぎがあって、妻が自分自身や子供に対して自分が持つ100%の時間を使うことが出来る生活は女性にとって魅力的な場合があるだろう。そうした立場を手に入れている友人・知人などの状況を知ると、「自分も!」と思う気持ちを分からなくもない。

そこで、女性側ができれば相手にこれくらい稼いでいて欲しいという「希望年収」の数字が一人歩きすることになる。

挙げられる数字はまちまちだが、600万円くらいである場合が多い印象だ。30歳前後のサラリーマンで考えると、なかなか微妙な水準だ。また、やや年齢を上げても、女性に稼ぎがあって、そこそこに贅沢な暮らしをしている場合「できれば、1000万円以上」などとハードルが上がる場合もある。

この際、はっきり言おう。男の甲斐性(自分だけが稼いで家族を養うこと)に対するこだわりは、今や現実的ではない。夫はATM(銀行の自動受け払い機械)ではないし、妻も働くことが普通なのだ。現代にあって、「専業主婦」はかなりの贅沢品なのである。

「二人なら」案外暮らせる

専業主婦は贅沢品だと言った。経済的な現実としては、多くの場合その通りだと思うのだが、仮に妻が専業主婦で暮らすとしても、案外暮らしは成立する。以下、典型的なケースとして、夫が稼ぎ手で、妻が専業主婦になるケースを想定するが、妻が稼いで夫が専業主夫になるケースでも論理は一緒だ。

若い会社員の一人暮らしの日々の生活を考えてみよう。家に帰ってもつまらないから、外に出掛けることが多いだろうし、食事も一人分を作るのは効率が良くないように思えるので外食が多いだろう(かつての筆者もほぼ100%外食だった)。

しかし、少なくとも新婚時代は、家に妻がいて食事を作ってくれているなら、夫は喜んで帰宅するだろう。

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外での飲み食いの金額を具体的に考えてみよう。この金額を生活費に回すことが出来るなら、十分やっていける場合が多いのではないだろうか。そして、住処が狭くても、新婚時代なら、それがむしろ楽しいことが多い。夫の収入だけで暮らすとしても、案外何とかなる場合が少なくないのが現実だ。

一般に、「貧困」を論じる統計調査にあっては、世帯の所得を、「世帯人数の平方根」で割って調整することをご存知だろうか(世界的にこの方式だ)。

同じ収入であっても、1人暮らしなのか、2人あるいはそれ以上なのかによって、困窮度合いが異なるのは当然だ。これをどう調整するのか。世帯人数の平方根で所得を割るということは、2人暮らしの場合、1人暮らしの約1.4倍の所得があれば同じくらいの生活水準だということだし、4人で暮らす場合なら、1人暮らしの大凡2倍の収入があればいいということなのだ。

生活にも、経済学で言うところの「規模の経済」が働く。2人で暮らすからといって、住居に2倍のスペースが必要な訳ではないし、トイレや風呂が2つずつ要る訳ではない。冷蔵庫も洗濯機も2つは必要ない。同じ物を作るのに、ばらばらに手仕事で作るよりも、まとめて工場で作る方が効率的なように、暮らしも、複数の人間が一緒に暮らす方が、経済効率がいいのだ。

かつて、「貧乏人の子だくさん」という言い回しがあった。経済的に豊かでなくても、大家族の生活は案外無事に成立するのだ。近年はあまり流行らないが、大家族は1人当たりのコストが安い効率的な暮らし方だ(日本がもっと困窮したら、見直されるかも知れない)。多人数が一緒に暮らすと、1人当たりの必要生活コストは大きく減少する。

加えて、前記のように1人暮らしのサラリーマンは、多くの場合、かなり無駄なお金の使い方をしている。結婚して、自分の暮らし方やお金の使い方を他人に見られるようになるだけで、無駄遣いは大幅に減る。あとは少々の工夫で、何とかなる場合が大半だ。

収入が少々少ないことで結婚を切り出せない男性は情熱と勇気に欠けるつまらない小心者だし、まして、相手の収入や世間体にこだわって結婚に躊躇する女性の人間性を考えると、はっきり言って「結婚しない方がいい相手」だ。

つまり、男性側には、経済力の不足を理由に「結婚しよう」と言わない理由は無い。拒否される理由が経済力なら、そんな女とは一緒にならない方がいいからだ。もちろん、求婚を女性の側から行うのでも何の問題も無い。女性の稼ぎに頼ろうとする男性も同様に「避けた方がいい相手」なのは、他人の問題として考えると理解できるだろう(自分の問題として考えると、分からなくなる場合があるので、注意したい)。

もっとも、筆者は、結婚しても、女性(男性)は専業主婦(主夫)にならずに、働き続ける方がいい場合が多いと思う。

それは、当面の生活のためというよりも、子供の教育費や老後の生活のためといった将来の経済的必要を考えた場合に「一人の稼ぎでは足りない場合が多い」からという現実的必要性と、夫婦両方が社会と仕事を通じた関わりを持ち、共に経済的にも自立出来る方が、夫婦関係も何かと上手く行くからだ。

結婚してからのお金の問題などは、この連載で今後ゆっくりご説明することにしよう。お金の問題など心配せずに、朗らかに結婚して欲しい。

 

著者プロフィール

山崎 元

(やまざき はじめ)

1958年、北海道生まれ。
東京大学経済学部卒業。現在、楽天証券経済研究所客員研究員。 現在は、コンサルタントとして資産運用分野を専門に手掛けるほか、経済解説や資産運用を中心に、メディア出演、執筆、講演、各種委員会委員等を務める。


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