【新連載:山崎元の男と女の婚活経済学 3】モデルルームは若い夫婦の「大勝負」の場だ

「新築」は魅力的に見える

筆者は不動産マニアではないが、それでも、マンションや一軒家のモデルルームを見ると「いいな」と思う。モデルルームは、生活から生じがちな「余計なモノ」が無く、スッキリ片付いている。何よりも「新しい家」は綺麗だ。結婚式で見る、若い花嫁が初々しくて美しいのとよく似ている。 

さて、モデルルームには、当然のことながら、若い夫婦のカップルが多数訪れる。昨今は、建設資材の高騰や人手不足によるコスト高などでマンション価格が上がって、若い夫婦には手が出にくくなっている。しかし、それでも、低金利でローンが組めることもあって、若いカップルは来る。

そして、若いカップルが来ると、筆者は、「これは、結婚初期の大勝負だな」と心の底で呟くのである。

一般に、男性よりも、女性の方が、家を持ちたがる傾向が強い。女性の方が家にいる時間が長いから、ということもあろうし、子供を育て、家を守ろうとする気持ちも強い。それが本能だとか、そうあるべきだ、といった解釈や価値観を押し付ける気持ちは筆者にないが、女性は概して家を持ちたがる。そして、新築のモデルルームは、その家を買うと素晴らしい生活が送れるようなイメージを醸し出すように演出されている。

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一方、男性は、主な稼ぎ手であって、ローンを背負うことが多いので、家を買うことについて、しばしば経済的な不安を覚える。しかし、結婚の初期にあっては、「家を買うと、妻が喜ぶのだろう」と想像すると、思い切って家を買うことがいいことだという気持ちを抱くことが多い。結婚の初期には、「恋愛のバブル」が継続中だ。夫の側にこうした気持ちがあるうちに、ローンを組んで家を買わせることができるか。ここが、結婚初期の妻と夫の大勝負なのだ。

夫が死ぬと家は妻のもの

住宅ローンを組んで、家を買ったとする。この状態は、妻の勝ちだ。高い確率で、その家は妻のものになる。

住宅ローンには、団体信用生命保険(通称「団信」)という生命保険契約が付いていて、ローンの担い手が亡くなった場合、ローンの残額が生命保険から支払われてローンが完済される仕組みになっている。一家の主な稼ぎ手で、ローンの担い手である夫が亡くなると、マンションなり一軒家なりは、相続人である妻の持ち物になる。

住宅を買うか買わないかを決めるには、その住宅価格が投資案件として考えた場合に高いか安いかということと、ローンが家計にとって過大な負担ではないかということとの、二つの判断が必要だ。

しかし、前者の判断は方法が分からない人が多いし、後者に関しても、35年といった超長期のローンを組むと軽い負担のように見えるので、無理をしがちだ。また、モデルルームは、二つの物件を比較すると、値段が高い方の物件がより良いものに見えるように出来ている。結果として、「何とか、買えそうだ」と思うぎりぎりの値段のものを買うケースが多い。

ちなみに、不動産業者が、迷っている買い手の背中を押すトドメの一言は「賃貸では家賃をいくら払っても家は自分のものにはなりませんが、購入する場合、ローンが終わるとこの家があなたのものになります。自分のものになる支払いと、自分のものにならない支払いのどちらがいいか、よく考えてみて下さい」といった、問いかけだ。

これは、正しい判断原理ではないのだが、実によく効く言葉だ。「自分のもの」になるのが、35年後で、その時の物件の状態がどのようになっているか、といったことには想像が及ばない。新築のキラキラした家が自分のものになる状態がイメージされる。

結果的に、経済力に対して、一杯一杯の値段の物件を買ってしまう若夫婦が少なくない。

こうした夫婦の家計を後から見ると、「経済的には、ご主人が亡くなるのが、一番安心ですね」といった状況になっている。

ちなみに、将来離婚に至る場合、家をどうするかが問題になるが、夫に離婚原因がある場合、妻に家を渡して、ローンを払い続けるような条件が落とし所になる場合が多い。この場合も、家は、妻のものだ。

結婚初期の勝負が、いかに大きいかがお分かり頂けよう。

人生は変化する

株式投資などでもあることだが、不都合なあれこれは、対象を買ってしまってから、気づくことが多い。家もそうだ(結婚もどうやらそのようなものだ。「お互いに」であるが)。

サラリーマンであれば、転勤もあるし、勤め先が変わることもあるだろう。こうした場合、しばしば引っ越したくなるのだが、持ち家だとおいそれと引っ越しできない。購入する時には、不動産屋が「価値のある物件なので売ればいいし、貸すこともできるから大丈夫だ」と言うのだが、好条件で買い手・借り手を探すのは容易でない場合が多い。

また、子供の学校などの都合で、引っ越しをしたくなる場合もある。イジメなどの問題が起こることもあるし、学校や教師と子供の相性が悪い場合もある。こうした場合の解決策として、引っ越しによる転校は有力なオプションなのだが、持ち家だと引っ越しが難しい。

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そもそも、新築の家の代金には、2割から3割くらいの業者の利益が含まれているし、いったん買った家は翌日から「中古住宅」だ。特に、当初の10年ほどの建物部分の価値の下落は急速だ。

また、かつて開発された団地や住宅地が、住民の加齢と共に寂れていくケースが方々に見られるが、家も古びていくし、街も老いることがある。

加えて、今後、日本は急速に人口が減るのだ。例えば、一人っ子同士の夫婦であれば、親の家が二軒あって、少なくとも一軒は家が余るといったことが、方々で起こる。本格的な人口減少時代の不動産価格がどうなるか、について十分なデータはまだ無いが、見通しは明るくない。

住宅は景気への影響が大きいので、新築の住宅を買ってくれる人は日本経済にとってはありがたい人なのだが、新婚時代の大勝負で、無理な住宅購入をしないように気を付けて欲しいものだと思う。

そのような訳で、モデルルームで若夫婦を見ると大いに心配になるのだが、余計なことを言うと不動産業者に迷惑を掛ける。大勝負の行方に興味を持ちつつも、筆者は、黙って早々にその場を立ち去ることにしている。


著者プロフィール

山崎 元

(やまざき はじめ)

1958年、北海道生まれ。
東京大学経済学部卒業。現在、楽天証券経済研究所客員研究員。 現在は、コンサルタントとして資産運用分野を専門に手掛けるほか、経済解説や資産運用を中心に、メディア出演、執筆、講演、各種委員会委員等を務める。


山崎元の男と女の婚活経済学コラム | バックナンバー
1.「経済力」は、「結婚しない理由」にはならない
2. 結婚とは「恋愛のバブル」だ
3. モデルルームは若い夫婦の「大勝負」の場だ
4.「専業主婦」への幻想を捨て去れ!