【連載:映画で分かる女の本音】美しき四姉妹から学ぶ本音を言うべきタイミング~『海街diary』~

気持ちを伝えることはとても大切なことですが、伝えないと届かないのは分かっていても、それを伝えたことによって相手を傷つけてしまうこともある。この言葉を吐き出してしまうか、それとも吞み込んで胸にとどめるか、まるで喉のあたりを言葉の空気が行ったり来たりするような感覚は、決して気持ちのいいものじゃないです。だって悩んでいる、ということですから……。

ホンネスト

吉田秋生さんの原作マンガを映画化した『海街diary』(監督:是枝裕和)にもそんな「伝えたいけど、伝えられない」もどかしさがたくさん詰まっていました。鎌倉の一軒家で暮らす四姉妹のお話で、長女の幸を綾瀬はるか、次女の佳乃を長澤まさみ、三女の千佳を夏帆、四女のすずを広瀨すずが演じています。何とも美しい絵に描いたような姉妹です。でも、姉妹とはいえ性格は異なるし抱えている悩みもそれぞれ。4人はただ仲良く暮らしているだけではないことが、じんわりじんわり明らかになっていきます。大きな事件は描かれませんが、日常にある誰もが抱く感情をくいっと引っ張り出してくれる、だから心が動く。

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長女の幸はしっかり者で妹たちにとっては母親代わりのような存在ですが、その優しさの奥には両親への怒りがあります。家族を捨てて出て行き不倫相手と再婚した父、離婚後に再婚して家を出ていった母、けっこう複雑。物語はその父親の死によって腹違いの妹すずと出会い、彼女を鎌倉に呼ぶところから始まります。妹といっても、よくよく考えてみたら三姉妹にとっては自分たちの家族がバラバラになるきっかけを作った女性の子供。そこに負の感情はないのだろうか、素朴な疑問を抱きますが、なぜ幸がすずに「一緒に暮らさない?」と言ったのか、それは単なる優しさだけではない、彼女自身がいま抱えている問題と向きあうための選択でもあったんだと気づくシーンがあるんです。母親に対して、恋人に対して──それはまさに何度も吞み込んできたであろう言葉を伝えた瞬間でもある。文字にしたら何てことのない言葉でも、あの緊張感、その後のあたたかな感動は忘れられません。

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おそらく、幸とすずは似ているんですね。優しすぎるがゆえに相手を想って我慢して言葉を吞み込んでしまうところが。一方、佳乃と千佳は思ったことをぽんと口に出せるキャラクターを担っていて、彼女たちが何気なく発する言葉たちはそのまま観客である私たちの心にも響いてきます。たとえば、佳乃が幸に向かって「お母さんにちゃんとやってるところ見せたいだけでしょ? もうほとんど意地じゃん」というセリフは勢いに任せているようで、実は“お願いだから自分の幸せも考えてね、お姉ちゃん”という心の叫びでもあって、はっとさせられます。また、千佳の「私お父さんのことあんまり覚えてないんだよね。今度聞かせてね、お父さんのこと」というセリフは、すずにとっては幾度となく吞み込んできたものを出していいんだという、さり気ないけれどこちらもはっとさせられるサインなんです。

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そう、この姉妹のだれもが絶妙なタイミングで相手に気持ちを伝えているんです。吞み込むことも、伝えることも、どっちも相手を想うがゆえの行動。ああ、こうやって人と人は絆を深めていくんだなと本音の伝え方を教えてもらった、とても愛にあふれた映画です。

 

「海街diary」

2015年6月13日(土)全国東宝系公開

(C) 2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

監督・脚本:是枝裕和 原作:吉田秋生「海街diary」(小学館「月刊フラワーズ」連載) 音楽:菅野よう子 撮影:瀧本幹也

出演:綾瀬はるか 長澤まさみ 夏帆 広瀬すず 大竹しのぶ 堤真一 加瀬亮 風吹ジュン リリー•フランキー 前田旺志郎 鈴木亮平 池田貴史 坂口健太郎