【ネット婚活】【新連載:山崎元の男と女の婚活経済学 5】超合理的男女関係思考の勧め

合理的でないことは分かっているが

残念ながら、男女関係を語る上で、筆者は人生経験がそれほど豊富ではない。しかし、男女間の問題について、自分も含めて、人が「合理的」ではないことくらいは知っている。

一方、伝統的な経済学で考える人間(いわゆる「ホモ・エコノミクス」)のような合理性で男女間の問題を考えることが出来たら、本当はいいのではないかと思うことがある。本稿では、経済学で考えるような意味で合理的に物事を考えると、男女間の問題がどう見えるのかについて、あれこれ考えてみたい。

尚、以下で述べる「男女間」の問題は、恋愛関係にあるなら、「男性同士」でも「女性同士」に読み替えて頂いて全く構わない。「男女間」の問題として書いてみるのは、それが筆者にとって分かりやすくて、書きやすいから、というだけのことであることを、一応お断りしておく。

一般の読者には、たぶん、「男女間」以上に経済学的に「合理的」な思考というものについて注釈しておくことが大事だろう。

人間の合理性については、経済学にあって、様々な解釈がある。例えば、標準的な経済学では、自分の幸せ度合い(効用)を考えるに当たって、他人の幸せ・不幸せは評価の材料にならない。しかし、生身の人間の幸せ・不幸せにとっては、他人の幸せに対する嫉妬が重要な要因となり得る。これが「現実」だ。

但し、そこで、「経済合理的には、他人の幸せ・不幸せは、自分の幸せに関係無いと考えるのだ」と思い直すことで、気持ちを楽にすることができたり、より前向きになることができたりする場合がある。

今回、筆者が、お伝えしたいと思うのは、そのようなヒントだ。以下、本稿では、「一般人には少し意外かも知れないが、経済学的にはこう考える」という概念として、①機会費用、②サンク・コスト(埋没費用)、③効用の独立性、の3つをご紹介する。

①恋愛・婚活における「機会費用」

~より良い相手がいないなら、今の相手で我慢しなさい!~

機会費用は、個人の気持ちにとって、なかなか厄介な考え方だ。機会費用とは「実際に選択する選択肢と、実際には選択しないのだけれども最も利益になる選択肢との損得の差」を指す概念だ。

例えば、ある大学生が、一回5千円の家庭教師のアルバイトをしているとする。そして、このアルバイトは、彼(彼女)にとって2千円に相当するだけ苦痛だとしよう。アルバイト一回分の利益は3千円だ。そこで、彼(彼女)が、アルバイトをサボって、1千5百円の鑑賞料の映画を観に行くとするなら、この映画を鑑賞する費用は、実際に支出する1千5百円に加えて、映画に行かずに働くなら得られたはずの利益である「機会費用」3千円を加えた、4千5百円だと考えなければならない。

つまり、4千5百円払ってでも観たい映画であるかどうかが、学生がアルバイトをサボってこの映画を観るかどうかの意思決定の分岐点になるのだ。

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機会費用の概念は、「婚活」の意思決定に露骨によく馴染む。

たとえば、ある女性の心の中の採点基準で、今付き合っていて結婚が可能な男性の点数が70点だとしよう。しかし、付き合って結婚することが可能な80点の男性が別にいるのだとすると、現在付き合っている70点男と結婚する「機会費用」は10点だ、ということになる。彼女が経済合理的に行動するなら、付き合う相手を変えることになるだろうし、現実にそうする人は多いかも知れない。

別のケースを考えよう。ある女性に、これから付き合い結婚することが可能な50点の男性がいるとする。彼女にとって、自分の結婚相手に対して50点は不満なレベルなのだとしても、他に50点を上回る結婚相手の候補がいないのであれば、この50点男子と結婚することを選ぶべきだと考えられる。

経済思考的に、彼を振ってもいいのは、一人暮らしの人生が50点以上に評価できる場合だけだ。

機会費用の概念は、「この選択肢以外に、あなたには何が可能なのですか?」と問いかけて来る。もっといい相手がいるなら、現在の相手と結婚するのはもったいないし、自分が獲得可能な他にいい相手がいないなら、この相手と結婚するのがあなたにはベストなのだと言い募る。

なかなか厄介な考え方だが、多くの男女が、現実には機会費用の考え方に影響されながら、心を揺れ動かしているのが現実だ。

特に婚活にあって「機会費用」の厄介なところは、相手の選択の機会費用だけを考えていていいという訳ではないことだ。実際には、結婚せずに過ごす「時間」の機会費用も考えねばならないし、次に登場する相手がどのような評価の人なのか、また、その人を結婚の対象と考えていい確率はいかほどのものか、といった複雑な問題があり、全ての要素について考えるのは困難だ。年長者としては、「結婚は大変だけれどもやり直しが利く。勢いがあるうちに一回結婚してみるといいよ」というのが、人生の後輩に向けた大凡のアドバイスなのだが、自分が大切すぎて結婚に踏み切れない若者(実年齢の高い「心だけ若者」も含めて)が少なくない。

②恋愛・婚活に於ける「サンク・コスト(埋没費用)」

~済んでしまったことは、仕方ないじゃないの~

「サンク・コスト(埋没費用)」とは、既に発生してしまって、後からは取り戻すことができない費用のことだ。経済学は、意思決定上サンク・コストは無視して、将来起こし得る変化だけに注意を集中して意思決定を行えと主張する。

例えば、株式投資にあって、自分が買った株式の株価が、自分の買い値よりも値下がりしていても、その株式が今後有望でないと判断するなら、自分の買い値には関係無く売却することが正しい意思決定だ。自分の買い値からの値下がり損は、既に生じた費用(損)なのでサンク・コストであり、今後の意思決定には関係ない、というわけだ。

昭和の歌謡曲に「知りたくないの」(歌・菅原洋一)という名曲があった。出だしは、「あなたの過去など、知りたくないの。済んでしまったことは、しかたないじゃないの」という味わい深い歌詞だった。「済んでしまったことは、しかたないじゃないの」という考え方こそが、サンク・コスト(埋没費用)の概念の神髄だ。

しかし、言うのは簡単だが、実践は難しい。株式投資で言うなら、よほどの上級者やプロフェッショナルでないと、自分の買い値に拘らないで意思決定することは難しい。

恋愛や婚活の世界では、「埋没費用」概念の教訓は、典型的には、現在の相手の評価を過去に別れた相手との関係で行うべからず、ということになろう。大事なのは、これから生じるかも知れない新しい相手との比較であって、過去の相手との比較ではない。

また、この概念を先鋭に突き詰めると、例えば、自分が付き合っている相手、あるいは夫婦関係にある相手が浮気をしたと知った場合、過去の浮気の有無はどうでも良くて、今後、自分と相手の関係から得られるメリット・デメリットだけが問題なのだという結論が導かれる。

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経済合理的意思決定としては、相手と自分との今後の関係だけが問題であって、過去に浮気があったかどうかに拘ることには意味がない。自分に自信があるなら、そして、相手をいいと思うなら、過去に起きたことに興味を持つのではなく、今後どうしたいと思うのかにだけ注目すべきだ。

相手がどうしたのかを調べるのではなく、自分がこれからどうしたいか、それは可能なのか、ということにだけ注意を集中するのがいい、というアドバイスは、トラブルを抱えた多くのカップルの当事者達に対して有効だろう。そう考えることによって、上手く考えを整理できる人が少なくないと思う。

しかし、「私の浮気の有無は、本来、あなたの意思決定に関係ないでしょう。あなたと私が、それぞれこれからどうしたいかだけが問題でしょう」という言い訳(或いは「開き直り」)は、経済学的には全く正論ながら、現実的には通用しそうにないので、予めご注意申し上げておく。

③効用の独立性

~嫉妬は判断を曇らせる?~

伝統的な経済学の世界では、自分が少しでも得になるか否かだけで人間が意思決定をすると考える。例えば、100円貰えるか、1円も貰えないか、というケースの比較なら、文句なく前者を選ぶ。

しかし、現実には、2人の人がいて、1万円を分割するにあたって、「一方が9900円取って、自分が100円貰える」という選択肢と、「自分が1円も貰えないけれども、相手も1円も貰えない」という選択肢を較べる場合、後者を取る人が少なくないことが行動経済学の研究で多数報告されている。

理由は人によって異なるかも知れないが、「自分の利益を少々犠牲にしてでも、不公平な分配を阻止したい」という辺りが平均的な理由だろうか。

男女間の問題を考えるに当たって、「嫉妬」は全く厄介な問題だ。古今東西、現実にも、文学などのフィクションにも、多くの三角関係が登場するが、三角関係の対立する者どうしが(例えば、一人の女性を巡る二人の男性が)直接やり取りするとろくなことがない。

NHK総合テレビに「ダーウィンが来た!」という自然界の営みを伝える番組があるが、これに登場する特にメスを巡るオス同士の争いを見ると、人間にあっても男性同士の嫉妬が深刻な問題になって、しばしば判断を狂わせることが納得できる。

もっとも、筆者の友人の弁護士によると、相手の不貞を原因とする離婚問題にあって、夫(つまり男性)は妻の浮気相手の男性と顔を合わせたり関わり合いになったりすることを避けようとする傾向があるが、妻(つまり女性)は、夫の浮気相手の女性を処罰したいという感情から、しばしば相手に対して損害賠償を請求しようとするのだという。

三角関係にあっては、自分の相手(配偶者や恋人など)の相手と直接交渉してはいけない、というのが有効な知恵ではないかと思うが、現実にはそうならないことから、しばしばややこしいトラブルが発生する。

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超経済合理的な人間は、自分の相手が別の人とどう付き合っているかに関係無く、自分と相手との今後の関係だけに関心を持ち、ここから生じ得る幸福の最大化に務める。「それは、現実的ではない」という読者の声が聞こえてきそうだが、一つの物の考え方として、検討の選択肢に入れてみると参考になることがあるのではないか。なぜなら、「嫉妬」というものは、第三者から見てかなり見苦しいものだからだ。

ところで、「機会費用」、「サンク・コスト」、「効用の独立性」を完璧にマスターした人間はどのように恋愛に関わるのか。

直近も含めて相手の過去の男女間の行動に一切こだわらずに自分の幸せを追求し、相手に別の恋人がいようと気にせずに付き合い、しかし、いい相手が見つかるまで手に入る相手で満足するが、現在の相手よりも好条件の相手がいたら相手を変えることを全く厭わない、といった特殊な人間像が浮かび上がる。

一流倶楽部のホステスさんのような、プロフェッショナルな客商売の人の行動パターンがこれに近いような気がするし、タレントさんで名前が浮かぶ人もいるのだが、実名を挙げるのは差し控えることにしよう。


著者プロフィール

山崎 元

(やまざき はじめ)

1958年、北海道生まれ。
東京大学経済学部卒業。現在、楽天証券経済研究所客員研究員。 現在は、コンサルタントとして資産運用分野を専門に手掛けるほか、経済解説や資産運用を中心に、メディア出演、執筆、講演、各種委員会委員等を務める。


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